「どうやら、グラスの底が抜けたまま2000年になっちまったようじゃな」 「だから、抜けてるのはグラスじゃなくて、あんたの方だって」 「まぁ、それはそれで、2000年と2000年代に挨拶せんとな」 「それはそれで、で済ます気かい」 「おい、大変じゃぞ」 「今度は何かね」 「どうやら今度はボトルの底が抜けちまったようじゃぞ」 「ワシの方がおまえさんより東にいるという事は、 ワシの方が先に2000年を迎えたという事じゃな。 どうじゃ、1000年代に生きる人間よ、2000年代に生きるワシに向かってなんぞ話しかけてみんか」 「同じ国にいる場合は、西にいようが東にいようが同じだよ。 だいたい1メートルも離れて無いじゃないか」 「人間の取り決め事なぞ、お天道さんは気にせんと思うがの」 「それを言うなら、暦だって人間の取り決め事だよ」 「普通こういう場面では、何らかの決意表明なぞするもんなんじゃが」 「悪いが、ここでは、一切の決意表明は禁止されてるんだ。 どうしてもやりたかったら、外に出てやっとくれ」 「一体いつからそんな無粋な店になったんじゃ」 「確か1000年代の終わりに程近い頃からかな」 「そりゃ残念じゃな。こう見えてもワシは伝統を重んじるタイプじゃでな」 「飲み食いしたら金を払うのも立派な伝統だと思うがね」 「今のワシは乾杯の伝統にかかりっきりじゃて、そっちの伝統はあんたに任せるよ」 「やっぱり、こんな日には希望に満ちた言葉の一つも言った方がいいのかな」 「どうせ、なんだかんだ言ってるうちに、20世紀の終わりと21世紀の始まりが来るんじゃ。 その手の事は、その時に済ましゃいいじゃろ。同じことを何度も繰り返すこたぁ、ないさね」 「そういえば、何かいつも同じことを繰り返しているような気がしてしょうがないんだがな」 「あんたもそう思うかね。実はワシもそう思ってるところなんじゃ」 「じいさんと意見が合うなんて珍しいな」 「見てみろ、このグラスまた底が抜けとるぞ」 01,Jan,2000
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